ジャカルタに来て早々、私は「沼った」。
いや、変な趣味を見つけたとか、そういう話ではない。
コンクリートのDIYにハマったとか、マイクラで建築に目覚めたとか、セメントと水の絶妙な比率を見つけて「うおお、強度が上がったぜ!」と興奮しているわけでもない。
物理的に、である。
生乾きのコンクリートに、両足をズボッとやった。 これが、私のジャカルタ生活の輝かしいスタートだった。
事故は突然に、そして静かに訪れる
交通量の多いジャカルタの道を、私は注意深く歩いていた。……つもりだった。
日本の感覚でいると、「危険!立入禁止!」と書かれた黄色と黒のバリケードや、光るコーンがあると思うじゃないか。 しかし、ここはジャカルタだ。
振り返ってみると、確かに「それらしきもの」はあった。 木の枝で、申し訳程度に囲ってあるだけのコンクリゾーン。
いや、あれに気づける奴いる?
森の中でも普通に自然発生しそうなレベルの枝だったぞ。 風景に溶け込みすぎて、完全にカメレオン状態だった。
その結果、日本からわざわざ持ってきた「お気に入りのサンダル」は一瞬でコンクリートまみれになった。 足が重い。 漫画の修行で主人公がつけられる、あの鉛の靴かと思うほど重かった。

罪の意識と、笑うおっちゃんたち
「どうしよう…完全に足跡がついている…」 「これ、誰に謝ればいいんだ…?」
異国の地で、器物損壊(?)である。
パニックになりながら後ろを振り返ると、近くに座っていたローカルのおっちゃん達がこっちを見て笑っていた。
言葉はまったく分からない。 でも、私の都合の良い脳内翻訳ではこうだった。
「ハッハッハ!大丈夫、大丈夫!それ俺らが埋めたやつだから!あとでまた均しておくから気にすんな!」
実際何を言っていたのかは永遠の謎である。
ただ単に「あのアホ、見事にハマりやがったぜ」と爆笑されていた可能性のほうが高い。いや、絶対にそうだ。
でも、あの時の私には、あの頼もしそうな笑顔を「赦し」として受け取るしか、異国で精神を保つ方法がなかった。
ジャカルタに刻まれた私の遺跡
しかし、現実は非情である。 用事を終えて同じ道を戻ってくると、そこには絶望が待っていた。
私の足跡のまま、コンクリートが完全に固まっていたのだ。
あぁ…。 ジャカルタの大地に、私の生きた証が残ってしまった。。
申し訳なさすぎて、私はその後数日間、その道を避けて生きていた。
しかし一週間後。 恐る恐るその道を確認してみると――
完璧に埋め直されていた。
あの日笑っていたおっちゃん達よ……ありがとう。 まあ、直したのが彼らだったのかは全くの不明だが。
結論:私の足跡すら残させてくれない街
これからジャカルタ生活を始める皆さんに、声を大にして言いたい。 ジャカルタの工事ゾーンは、本当に危ない。 ステルス性能が高すぎる。
せめて「Hati-hati(気をつけて)!」と書いた看板を立てておいてくれればいいのに、と思う。 だが、そんな親切はこの街にはない。
ジャカルタの大地に自分の生きた証(足跡)を刻んだと思ったが、一週間であっけなく上書きされてしまった。 この街は常に変化し、私の小さな失敗なんてすぐに飲み込んで無かったことにしてしまうのだ。
なんだか少し、寂しくもある。 ……いや、ただサンダルがダメになっただけだ。寂しくなんかない。 みなさんも、足元にはくれぐれもご注意を。