
娘のプライバシーが、いつの間にか異国の地で世界に発信されていた。
結論から言うと、親の許可なく、娘が幼稚園のポスターとInstagramでソロデビューを果たしていたのである。
突然のソロデビューと「事後報告すらしない」という洗礼
うちの娘(3歳・肉しか勝たん)の話である。
私は彼女を、脳内で「トニカクカワイイ」と呼んでいる。 某漫画のタイトルのようだが、ただの親バカフィルターを通した痛い呼び名であることは自覚している。 そんな娘が、最近できたばかりのインターナショナル幼稚園(新キャンパス)に通い始めた。 日々の送り迎えは、休職中の駐在主夫である私の仕事だ。
ある日、いつものようにお迎えのため教室へ行った。 すると、入口の壁一面に、娘の顔写真がドーンと貼られていた。
ポスター。パンフレット。掲示物。 完全に「大型新人、ソロデビュー」の仕上がりである。
ちょっと待ってほしい。 いつ撮った? いや、その前に、親への一言くらい……ないの?
「インスタにも載ってるよ♡」
私から「これは何だ?」と聞くまで、園側はこの件に触れる気はゼロだった。 尋ねてみると、スタッフは満面の笑みでこう言い放った。
「インスタにも載ってるよ♡」
……は?
いや、嬉しいよ? 嬉しいけれども。 事前の許可は? プライバシーポリシーはどうなっているんだ? せめて「載せましたよ」という事後報告くらいあってもいいのではないか。親にも心の準備というものがある。
しかし、その瞬間。 私の心の中で、コンプライアンスを重んじる「ザ・日本人」の私と、ただの「親バカ」の私が激しく衝突した。
結果、親バカが秒で圧勝した。
怒りよりも先に、こう思ってしまったのだ。 「もっとやれ」と。 「うちのトニカクカワイイを、もっと世界に広めるんだ」と。
親バカというのは恐ろしい。 個人情報保護の観点よりも、己の娘の可愛さを知らしめたいという謎の承認欲求が暴走している。
契約社会の恐ろしさと、唯一の心残り
家に帰り、入園書類を引っ張り出して見返してみた。 下の方に、米粒のような字で小さくこう書かれていた。
「園は、いかなる写真も好きに使用する権利を有します」
強い。 権利が強すぎる。 会社間のBtoBの契約書だったら、一発で法務部に突き返されて「完全にアウトです」と言われるレベルの横暴な文言だ。
完全に私の見落としである。
サインする前に、せめてこう書き足しておくべきだった。
「※ただし、髪がボサボサの時の写真は除く」
そう。壁にドーンと貼られ、インスタで世界に発信された娘の写真は、寝起きかと思うくらい髪が乱舞していたのだ。 どうせ世界に向けてソロデビューさせるなら、もっとコンディションの良い時を狙ってほしかった。
とはいえ、髪がボサボサでもとにかく可愛いので、私からの不満は実質ゼロである。 親バカは世界を救う。
結論:可愛いから、まあいっか
インドネシアでの子育ては、予測不能だ。 日本の常識やコンプライアンスなんてものは、満面の笑みと「♡」マークの前には無力である。
うちの「トニカクカワイイ」のプライバシーは、今日も私の与り知らないところで、どこかの誰かのスマホへと旅立っていった。
でもまあ、可愛いからよしとする。 細かいコンプライアンスを気にしていては、ジャカルタでは生きていけないのだ。