
ジャカルタに来て、ゴルフを始めることになった。
自分でも何を言っているのかよくわからない。
昔から私を知っている人がこれを読んだら、
「あんたが?」と思うだろうし、ちょっと落胆するかもしれない。
あれだけ言っていたからだ。
ゴルフなんてしない。
ゴルフなんてもんはスポーツじゃない。
そう言っていた。
その私が、40代になって、ジャカルタで、まさかのゴルフである。
人生は本当にわからない。
ゴルフは金持ちのおじさんのスポーツだと思っていた
私の日記を読んでくれている人がいたら、薄々気づいているかもしれないが、私は偏見の塊だ。偏見がかろうじて服着て2足歩行しているに過ぎない。
そんな私はずっと思っていた。
ゴルフは金持ちのスポーツである。
金持ちのおじさんがやるものであり、さらに言えば、商談を成立させるためにやるもの。つまり接待である。
私の中のゴルフ像は、だいたいそんな感じだった。
今の若い子なんて、もはやゴルフという言葉すら知らないんじゃないか。
……は、さすがに言い過ぎかもしれない。
でも、私が若い頃ですら、周りでやっているのはおじさんばかりだった。
そして今、その頃のおじさんたちは、もっとおじさんになっている。
なので、ゴルフはそのうちなくなるとすら本気で思っていた。
そんなスポーツに、まさか自分が手を出すとは思っていなかった。
きっかけは、ゴルフクラブ一式をもらえることになったから
話は急に現実的になる。
きっかけは単純だった。
ゴルフクラブ一式を、もらえることになった。
これが大きかった。
というか、ほぼ全てだった。
私はゴルフをやらなかった理由の一つに、
「最初に道具を揃えるだけで、とんでもなくお金がかかる」
というイメージがあった。
もうその時点でやる気を削がれる。
スポーツというのは、もっとこう、ボール一つで始められるものであってほしい。
でも、道具一式がもらえるとなったら話は変わる。
高価な装備が向こうから来るのであれば、じゃあ、あとは打つだけじゃないか。
棒を振って打ってボールを飛ばす。
急にハードルが下がった。
主夫生活には、男の知り合いがいない
もう一つ理由がある。
男の知り合いが、いない。
本当にいない。
ママ友はできた。
それはありがたい。
でも、男の人はゼロである。
ジャカルタに来て大人の男と話す機会がゼロ。
なかなかのインパクトではないか。
もちろん、一人は好きだ。
子どもと過ごす時間も好きだし、家族だけで十分だと思っている。
でも、それでも時々思う。
やっぱり、外との接点はあった方がいいのかもしれない。
ママ友以外とも、少しは社会とつながっていた方がいいのかもしれない。
そうなった時に、必要になるのは同じおじさんである。
そして、こっちのおじさんたちは、朝の4時とか5時からゴルフを回って、9時には普通に働いているらしい。
異常な気もするが、それに参加すれば、働いていない私でも、働いているおじさんとコミュニケーションが取れるわけである。
朝3時に起きて弁当を作れば成立する、か?
じゃあ時間的にどうなのか。
たとえば5時から回るなら、3時に起きる。
弁当を作る。
子どもの着替え、準備をする。
朝ごはんを並べておく。
そうすれば、それなりに妻の負担も減るか。
それが月1回とかなら、そこまで無茶ではない……のかもしれない。
妻もたぶん、私がずっと家に一人でいることに対して、少し気にしていたのだと思う。
むしろ「やってみたら」と言われた。
そこで、ああ、もうこれはやる流れなのかもしれないと思った。
相変わらず、私は何かをもらって生きている
それにしてもである。
昔から、私はやたらともらう。
もらい癖というか、何かと大きいものをもらってしまう人生である。
先輩から大型バイクをもらい、車をもらい、義父からもまた大型バイクをもらった。無料で。無料ほど怖いものはないとわかっているが、怖くても貰えるものはもらう。
そして、ここに来て、まさかゴルフクラブ一式まで来るとは思わなかった。
ゴルフバッグを背負う自分を、まだうまく想像できない。
ゴルフバッグを背負っている人を見たら、いつも心の中で「このクソ金持ちめ」と思っていたからである。
その側に、今から自分が行こうとしている。
なかなかの裏切りである。
3日後に練習と言われて、慌てて体験レッスンへ
しかもである。
「じゃあ今度練習行こう」と言われたのが、3日後だった。
3日後。急すぎる。
いくらなんでもクラブの持ち方くらいは知っておきたい。
せめて、
-
どう握るのか
-
どう立つのか
-
どう振るのか
それくらいは頭に入れておきたい。
「ここを握ってください」から教えてもらうのは、さすがに申し訳ない。
ということで、慌ててレッスンを探した。
ジャカルタで。
すると、体験レッスンがあった。
しかも2000円くらい。
安い。
……と思ったが、その後の通常料金を見て震えた。
1回1万円以上する。
やっぱり金持ちのスポーツである。
とてもじゃないけど払えない。
だから私は決めた。
この体験レッスンに、全てをかける。
この1回で、ゴルフの基本を全部持って帰る。
この1回で、プロゴルファーになる。わいは猿や!
…そういう気持ちで臨んだ。
体験レッスンは、普通に助かった
行ったのはJakarta Golf Academy (ジャカルタゴルフアカデミー)
場所はここ。
日本人の先生がいて、持ち方から、基本的なフォームまで、丁寧に教えてくれた。
まあ、初心者というか初ゴルフなのだから、教えることもだいたい決まっていて慣れているのだろう。
でも、とても助かった。
「何も知らない」から「とりあえず置いてあるボールは打てるかもしれない」まで、一気に持っていってもらえた。
もちろん、付け焼き刃もいいところである。
付け焼き刃を糊で刀にくっつけただけくらい薄い知識だ。
でも、何もないよりはずっといい。
レッスン代が高すぎるので、今後はもう、このレッスンで頭に入れた知識で、ひたすら打ちっぱなしでしこしこやるしかない。
このまま終わる可能性も普通にある
とはいえ、である。
このあと練習に呼ばれて、あまりにも見込みがなかったり、そもそも気に入られなかったりしたら、もう二度と誘ってもらえない可能性もある。
その場合、この話はここで終わる。
「ジャカルタでゴルフ始めました」という日記は、ただの一発屋で終わる。
それはそれでアリかもしれない。
でも今のところは、やる気だけはある。
結局、おじさん同士が仲良く遊ぶにはゴルフしか残っていないのかもしれない
最後にちょっと思ったこと。
やっぱり、コネクションは大事である。
偉い人とか、仕事をしている人とか、同年代のおじさんとか。
そういう人たちと、ゆっくり関係を作る。
その手段として、おじさん同士が遊ぶものって、何があるのか。
飲みに行くのもいいけど、そればっかりもしんどい。
そう考えると、確かにゴルフは理にかなっているのかもしれない。
まだコースも回ったことがないので、本当にそんなに会話する時間があるのかも知らない。
待ち時間があるとか、移動中に話せるとか、そういう話は聞く。
でも実感はまだない。
わからない。
何もわからないまま、私は今、ゴルフバッグを背負おうとしている。
ジャカルタに来て何をやっているんだろう、と思いながら
ということで、ジャカルタに来て、ゴルフを始めることになった。
自分でも思う。
何をやっているんだろう、と。
息子にゴルフって何?と聞かれた。
私の今回のゴルフ偏見をありのまま伝えて、「だからおじさんがするスポーツなんじゃない」と締め括った。
じゃあ、なんでパパはゴルフをやるの?と聞かれ、そのシンプルな答えを思いついた瞬間に「なるほどな」とやっとすべてが腑に落ちた。
「パパはもうおじさんになったんだよ」
そう、だから、ゴルフを始めるんだ。
やっとゴルフができるコンディション、すなわちおじさんになったんだ。
この話は続くのだろうか。